大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 平成4年(行ツ)66号 判決 1992年5月22日

岡山県倉敷市西富井六三六番地の五〇

上告人

奥野勇

右訴訟代理人弁理士

森廣三郎

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 深沢亘

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行ケ)第二三四号審決取消請求事件について、同裁判所が平成三年一二月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森廣三郎の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木崎良平 裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也)

(平成四年(行ツ)第六六号 上告人 奥野勇)

上告代理人森廣三郎の上告理由

一、原判決には、本件考案を引用例二と対比するに当たり、第二引用例の要旨認定の際に、実用新案法第三条第二項に違反する誤ちをおかしており、結論に影響を及ぼすべき重大な法令違背といわなければならない。

1.原判決は引用例二について次のように説示した。すなわち、判決文第一三頁4において、引用例二は、「技術分野において極めて親近性が強く、両考案の基礎となる技術思想において共通し、かつ中空部の作用において本願考案と同一の作用を奏する形状の実施例が示されている引用例二の記載から、相違点<1>(排出促進装置のケーシングが、本願考案では、ケーシング外筒とケーシング内筒とからなり、該ケーシング外筒はほぼ同一径の筒状であり、かつ前記ケーシング外筒とケーシング内筒とで密封された中空部を形成してなるのに対し、引用例一では単一のケーシング筒のみからなる点)を極めて容易に想到し得たとする審決の認定判断に誤りがあるとすることはできない」である。

2.右判示にいう「中空部の作用において本願考案と同一の作用を奏する形状の実施例」とは、判決別紙図面(三)の第1図乃至第3図をいうのであるが、引用例二にいう「中空部」は本願考案と同じ作用をするものでは絶対にない。引用例二の外筒ハは単に自動車ボデーヘの取付けの容易さのみのもので、本願考案の別紙図面(一)の第4図にいう空気加速通路がないものであって、そのため、本願にいう、中空部とテーパー状に狭まった空気加速通路との相互作用で浮力(浮力は負圧と解釈することで一致した)が発生し、その浮力に見合う減圧部位が逆テーパー内壁内に発生するメカニズムは起こり得ない。(なお、原告は原審の準備手続において口頭で、「浮力はこの中空部の断面形状が航空機の翼の断面に近く、航空機の場合は浮力の発生する葉素と称し、この葉素が別紙図面(一)第3図のように排気パイプの周囲図面合体して大きな空気加速通路を形成すると共に外筒の存在で乱流を防ぎ、著しい排気ガスの排出促進効果があがる」と説明した)引用例二は、別紙図面(三)第1図から明らかなように、末広がり管イの外周面のしぼりと平行な間隙からなる空気通路であって自動車の走行に伴って空気の流速が増す作用をするような広い空気取入口はなく、ここでは通路内でじゃまになるステーのニを通路から取り除きさえすればよいのが引用例二の技術である。その証拠に引用例二の改良技術を示す第5図乃至第7図の装置は、第7図から明らかなように、第6図の中空部は両脇が開口して密閉中空部を形成していない。したがって、引用例二には、判決にいう「中空部の作用において本願考案と同一の作用を奏する形状の実施例」は存在せず、第一引用例との相違点<1>の開示はない。

3.更に第二引用例は本願考案と全く逆の思想である。すなわち、ベルヌーイの定理に基づくエゼクター効果の利用装置である点では類似するが、エゼクター効果をもたらす流体とそのエゼクター効果を利用して吸引される流体とが排ガスと外気とで逆であり、したがって、目的、構成、効果において両者相違するものである。

第二引用例の第1乃至3図には、本願にいうテーパー状に狭まる空気加速通路はなく、ほぼ平行で大きな加速効果はない。ただ、外気が導入できれば排ガスの排出力によって、十分な空気が導かれるのである。したがって、密閉中空部との相関において本願にいう排気ガスの排出効果の示唆は全くみられない。しかも第二引用例は本願と技術的分野を同じくするとはいえ、その目的は判決も認めるとおり全く逆の作用効果を求めるものである。

4.ところが、判決はその第一二頁において記載している、引用例二に開示された技術の本願考案への転用の可否ないし容易性の程度の評価について、<1>ないし<3>の技術思想で一致すると判示している。すなわち、<1>は自動車等の排気ガス先端での排ガス処理、<2>はベンチュリー管の取付、<3>は排ガスと外気の圧力差からの負圧利用の点で技術分野の類似性があるとするものである。

しかし、この<1>ないし<3>の前提も、本願と引用例二とでは、<イ>排ガスの積極的排出と排ガスの冷却の相違、<ロ>ベンチュリー管の構造上の相違からくる中空部と空気加速通路の相互作用の有無、<ハ>負圧の逆利用の相違がある。

以上のように、本願考案と引用例二とは技術分野を異にし、広い技術分野で一致とした認定と、引用例二に「中空部の作用において本願考案と同一の作用を奏する形状の実施例の記載がある」と事実に反する認定とから、引用例との相違点<1>が引用例二からきわめて容易に考案することができたということを前提に、同第一四頁記載の「中空部の作用において本願考案と同一の作用を奏する形状の実施例が示されている引用例二」と認定判断されたものである。

5.以上のように、本願考案と引用例二の技術分野は、<1>ないし<3>の記載内容からすれば一致するかもしれないが、<イ>ないし<ハ>の相違があって、きわめて容易には引用例一との相違点<1>に付加する示唆は得られない。まして、引用例二には判決にいう「中空部の作用において本願考案と同一の作用を奏する形状の実施例の記載」はなく、事実に反する。したがって、本願考案の実用新案登録請求の範囲記載の要件である「排ガスパイプ先端部外周の空気加速通路(12)とケーシング外筒とケーシング内筒とで密封された中空部(15)」の相互作用による著しい燃費節約効果は引用例二からは絶対に出てこないのである。

二、以上のとおり、「引用例二の記載から、相違点<1>を極めて容易に想到し得たとする審決の認定判断に誤りがあるとすることはできない」とした判決は、実用新案法第三条第二項に違反してなされたものである。

三、添付書類の目録

別紙図面(一)ないし(三)

以上

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

別紙図面(三)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例